どうして、俺は、

     こんな生き方しか出来ないんだろう。



     なんて、答えが返ってくるはずのない、問いかけ。







     ― 望んだモノ ―







     今日、人を斬った。

     相手は結構弱かったから、殺すまではいかなかったけれど。

     けど、斬った。
     それは確かな事実。


     相手は、攘夷志士だった。
     あまり過激ではない奴等・・・のはずだった。
     が、役人の護衛中の真撰組隊士に、いきなり斬りかかってきた。
     まあ、少数だったからあっさり取り押さえたけど。

     それでも2,3人は抵抗するやつがいて。

     そいつを、斬った。俺が。

     ・・・・・いつものことだ。



     いつものことの、はずだ。
     なのに、どうして、

     どうして苦しいと感じてしまうんだろう?

     最近の俺は、おかしい。



     いつも、普通に仕事として斬っていたじゃないか。
     相手によっては、殺すことだって。
     そして、それを

     楽しんでいる俺だって、いたじゃないか。



     いや、違う。

     本当は恐いんだ、ずっと。

     人を斬って、殺すのが、恐くてたまらないんだ。


     それでも俺は、人を斬らなければいけなかった。
     仕事だし、何より近藤さんのためだ。
     近藤さんがいるから、俺は、どんなに恐くても辛くても、人を斬り続ける。

     だって、そうじゃないと、俺は真撰組にいられなくなるから。

     近藤さんは俺が言えば、きっと斬らないような仕事を回してくれる。

     でも、それじゃダメだ。意味が無い。

     俺は近藤さんの足を引っ張るんじゃなくて、役に立ちたいんだから。



     ああ、そうだ。
     恐かったからだ。

     人を斬るのを、楽しもうとしたのは。

     恐くて、やっていけなくて、それでもやらなきゃいけなくて、


     自分の感情をかくそうとした。

     楽しんでいるようにすれば良いんだと、

     自分は人を斬るのを楽しんでいるんだと、思い込むようにした。


     そうでもしないと、耐えられなかったんだ、当時は。


     いつの間にか、

     本当に楽しんでしまっている自分の出来上がり。


     それさえ、いつしか俺は忘れてて。
     今度は、楽しんでいる自分が恐いと、


     「思ってる、んだ」


     ああ、なんて俺は馬鹿なんだろう。


     人を斬って、それを楽しんでいるなんて、



     恐いって、分かりきっていたはずなのに。



     「馬鹿だなぁ・・・・・」


     「総悟、どうした?」


     ああ、そうか。
     俺はまだ、人を斬った仕事・・・護衛が終わったばかりで、外にいるんだっけ。
     考え込んでいて、忘れていた。
     土方さんの前だってのに。


     「別に、何も?」


     俺は今、笑っているだろうか。
     それとも、無表情?

     泣きそうな顔を、していないだろうか。
     涙は、出てないだろうか」


     「そーか」


     ああ、大丈夫みたいだ。
     ちゃんと、いつもの表情を、浮かべているらしい。


     「おーい二人とも、帰るぞー」


     「近藤さん・・・」

     「ほら総悟、行くぞ」


     さっきまで、考えていたから?
     近藤さんの笑顔を見ると、涙が出そうになってしまう。


     「近藤さん、土方さん」

     「ん?」

     「おう、どーした総悟?」


     今は、一緒にいられない。


     「今日の仕事はもう終わりですよねィ?ちょっと遊びに出てきまさァ」


     だって本音を出してしまいそうだから。


     「そーか?あんまり遅くなるなよ?」


     「へーぃ」


     それじゃ、と言って俺は歩き出し・・・たいのに、一歩以上動けない。
     何故って、理由は俺が知りたいけど、

     土方さんが俺の腕を引っ張ってるからだ。


     「・・・・土方さん?」


     「お前・・・・・」

     「どうした、トシ?」



     「・・・いや、やっぱいい」



     そう言って、俺の腕を放した。
     ねぇ、土方さん。


     「・・・じゃあ、行ってきまさァ」



     俺の演技は、分かりやすかった?






     人が死んでいく瞬間が、恐かった。

     だって確かにその人はさっきまで動いていたのに、もう、動かない。
     さっきまで喋っていたのに、感情があったのに、

     もう、無い。

     死んだら、何処へ行ってしまうのだろう。
     いつかは俺も、俺の大切な人も、こんな風に・・・

     動かなくなって、喋らなくなって、
     もう二度と、一緒に笑ったり泣いたり遊んだり、喋ったり、


     出来なくなってしまうの?



     そして俺は、それを楽しんでいるの ?



     初めて人を斬って、初めて人を殺したとき。

     あの時、確かに俺の中には、


     恐怖しかなかったはずなのに。






     「旦那・・・ッ」


     助けて、と
     何から助けてほしいのかも分からずに、


     俺は万屋へと走って行った。






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   ワオ、珍しく(自分にしては)はやい更新!
   最初考えていたラストを思い出せない・・・。


   

   07.11.18