ゲームが始まった。

     さて、作戦を練ろうか。


     絶対に負けないように、ね。













     ゲーム開始から4日。
     今のところ、特に何も無い。
     あえて言うとすれば、前よりも応接室に山本がいる時間が増えたぐらい。
     どうやら、僕を落とすことに躍起になっているなしい。
     嫌い、と言ったのが仇になったか・・・・・・。

     まあ、あるとしたらそれぐらい。
     良くも悪くもならずに、現状維持。


     どうやって勝とうか。

     そんなことを考えていたとき、起きた。
     って言っても、偶然見ただけなんだけど。




     場所は何故か、また校舎裏。
     昼休み、ちょうど校舎裏の草陰で昼寝をしていたら、山本が見知らぬ女子に連れられてやってきた。
     つまりは偶然、山本が女子に告白されているところを、・・・偶然、目撃してしまったということ。
     まぁ、それだけのことなんだけど。





     「あの、付き合ってくださいっ」


     有り触れた台詞。
     山本はどうするんだろう。
     いっそこのまま付き合ってしまえばいいのに、と思う。
     遊びで好きだと言えるのなら、遊びで付き合うことだってできるはずだ。
     それに本来、恋愛とは異性とすることのはずだ。
     もしここで告白をOKするというのなら、
     ゲームは僕の勝ちということで、予定通り咬み殺すけど。



     「・・・ごめん、今は俺、野球が大事だから・・・・・・」



     ・・・・野球が大事、ねぇ。
     遊んでいる時間はあるのにね。
     まあ、どうせただの断る口実だろうけど。
     あの女子はどうするんだろうか。
     大人しく諦めるのか、それとも、




     「や、野球優先でもいいからっ!」



     ああ、簡単には引き下がらないんだ。
     でも、こういう女子って大体は後になってから、「私と野球どっちが大事なの!?」とか言ってくるタイプだよね。


     「ね、それならいいでしょ?」

     「や、でも・・・」




     「お願い!遊びでもいいから!!」




     遊び・・・。
     遊びでもいい・・・・・、か。

     そんなの、嫌に決まってるのに。




     「ごめん、ホントは俺、好きなやつがいるんだ」

     「そ、なの・・・・?」



     うん、とか、じゃあいいよ、とか
     二人のやり取りが聞こえてきたけど、あまり頭に残らなかった。
     ああ、嘘をついてでも振るんだ?とか思ったぐらいで。
     僕の思考は、さっきの「遊び」にいっていた。

     「(遊び、か・・・・・・)」



     
「 ただの遊びだよ 」




     なんで、僕だったんだろう。
     楽しめそう?
     どうして、そのためだけに、殴られるの?
     そんな痛い思いしてまで、楽しむものなの?
     本当にただの遊びなの?

     本当は・・・・・・・・・・?

     ・・・、


     ああ、そっか。


     山本は、よく分かってるんだ。
     どうすれば、僕が気を許してしまうか。
     だってほら、今だって。
     実際に山本が言っていたのを聞いたのに、それでも信じきれないでいる。
     本当は、遊びというのが嘘だったんじゃあ、って。

     最初から全て、計画なんだ?



     僕はいつの間にか、随分気を許していたんだ。
     だから、もしかしたら、
     遊び、と言う言葉に・・・・・・。



     「(傷ついてたのかな、)」




 


     「ごめん」


     「・・・・・・・・・っ」



     女子が走り去っていく。
     どうやら話は終わったらしい。
     
     野球部のエース。

     きっと山本はモテる。
     告白だって、今回が初めてじゃないはず。
     でも、彼女がいるなんて聞いたことがない・・・と思う。

     じゃあ、毎回振ってるんだ?
     今のように、嘘をついて?


     どんな顔をしているんだろう。




     それはただの、好奇心。
     ゲームとか関係なく、知りたかっただけ。




     「チッ・・・・・めんどくせぇ」




     いつもの山本からは考えられないような、顔。
     友達と笑っているときの顔でも、
     部活に一生懸命な顔でも、
     何かに対して怒っている顔でもなくて、


     嫌悪が全ての表情だった。




     「ったく、わざわざ優しく断ってやってんのに」



     「テメェみたいな化粧濃い女と誰が付き合うかよ」



     「たとえ遊びだって、お断りだ」




     言葉だって、僕の知っていた山本とは全然違う。
     遊びだ、と言っていたときだって、言葉遣いはいつもと殆ど変わらなかったのに。


     これが山本の、本性?


     ・・・いや、まだだ。
     中身はもっと黒くて酷い。
     なんとなくだけど、ただそう思った。



     山本は少しの悪態を吐き、どこかへ歩いていった。

     彼より少し早く過ぎ去って言った女子に対して、


     嘲笑を浮かべながら。










     「・・・ふぅ」


     よかった、僕のことはバレなかったみたいだ。
     バレたらゲームが続けられないからね。

     そう、ゲーム。


     「・・・・・黒い」

     山本は、黒い。ついでに言ってることが酷い。
     あれがゲームの対戦者なんだ。
     いや、本性はまだ出し切ってないはず。

     負けるつもりは無い。
     ただ、勝てるかどうかも疑問だ。

     とにかく、相手の情報が少ない。
     少しでも銃砲、相手の本性を知らなければ、計画もしっかり立てられない。
     計画的に実行する、なんて普段の僕では考えられないことだけど。
     その必要が、このゲームにはある。



     「とりあえず、放課後かな」


     どうせまた応接室に来るんだろうし。
     僕とのゲームに勝つために、ね。
     でも、負けないよ。

     今日から僕も、勝つために行動を始めるからね。




     
さて、ゲームの説明書を読もうか。
     
(計画よりも先に、ね)









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   まだまだ黒くなってない!
   黒本はこれからだよ雲雀さん!

   07.12.16