「こんばんは、雲雀君」


     「・・・また来たの?骸」



     「君の顔が見たくて」



     「君って本当、物好きだよね」




     僕は普通の人間じゃないのにね。





     
love of vampire







     そう、僕は普通の人間じゃなかった。
     いや、人間という区分に入るのかも危うい。



     だって僕は、吸血鬼なのだから。



     晴れてる日の昼間は外に出られない。
     死ぬ、まではいかないが、それでも立っていられないからだ。
     何かをするには、人の血が必要となる。
     致死量になる量は吸わないけど。

     僕は異端で、人に嫌われる、吸血鬼。


     それと比べて、この男・・・六道骸は、ただの人間だ。
     ただの、とは言えないようなところもあるが、それでも僕にとっては人間でしかない。
     そんな骸が、


     「どうして僕に構うの?」


     「いつも言ってるじゃないですか。君が愛しいからですよ」


     分からないよ、そんなの。
     そういう意味を込めて、僕は骸から顔を背ける。
     だって、だってさ。
     どうして、こんな異端なんかを好きになるの?
     何も特なんて無いのにさ、分からないよ・・・。



     「おや、照れてるんですか?」


     「違うから。どーしたらそう思えるわけ?」

     「クフフ、そんなところも可愛くて好きですよ」



     ああもう、何でコイツとは会話が成立しないんだろう。
     別に照れてるわけじゃないのに。
     それに、本当は

     それを君も理解してるはずなのに。



     「好き、なんて、簡単に言わないでよ」


     「・・・まだ、気にしてるんですか」

     「・・・・・・・・・・・・・・。」


     「山本 武のことを」



     山本 武。
     彼は、骸に会う前、つまり骸よりも先に、
     僕のことを好きだと言っていた人物の名前だ。
     山本も僕が吸血鬼だということを気にしなかったし、

     それに僕も、

     山本の笑顔が好きだった。


     好き、「だった」。




     「山本 武は、事故だったんですよ」


     「・・・分かってるよ」



     そう、彼は死んだ。
     僕の住んでいる場所の、すぐ近くで。
     車道に飛び出してきた猫を助けて、代わりに車に轢かれた。
     ああ、なんて彼らしいんだろう、と思ってしまったけど。


     「・・・分かってるけど、でも、僕のせいだ」

     「・・・雲雀君、」

     「僕が、山本と出会わなければ、山本はこんなところへは近づかなかったんだ。そしたら、事故だって起こらなかった・・・ッ!」


     「雲雀君!」




     ああ、やっぱりダメだよ、山本。
     君のことを考えると、どうしても気が気じゃなくなるんだ。
     胸がどうしようもないくらい痛くなるんだ。

     ねぇ、何で此処に君はいないの?



     「・・・・陽が昇ってきました。今日はもう、寝ましょう」

     「・・・・・・・・。」


     「雲雀君」

     「・・・分かった、よ」



     陽が出たら、いけない。
     それで死にはしなくても、僕は吸血鬼だから。

     僕は、吸血鬼なんだ。



     「最初から、会わなければ・・・・・」


     それだけ呟いて、僕は眠りへと落ちていった。



     ねぇ、山本。
     君がいないだけで、僕はこんなにもダメなんだ。
     前は当たり前だったはずの日常が、苦しくてたまらない。

     だって、君がいないから。
     ずっと傍にいてくれるって、言ってくれたのに。


     
「ヒバリ!愛してる!」


     まるで冗談のように言った君の言葉が、頭を横切った。



     ねえ、僕も愛してるんだよ。
     一度も言うことはなかったけど、ねえ、


     君に出会えて、本当はすごくよかったと思ってる。

     (そのせいで、君は此処にはいないけど)





     「・・・おやすみなさい、雲雀君・・・・・・」



     骸の声だけが、静かで薄暗い部屋に響いた。






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   吸血鬼パロ。
   最初はムクヒバのつもりだったけど、何となく山ヒバ←ムクで。


   07.11.13