「は?」
なにか変な言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。
気のせいだろう。
むしろ気のせいだということにさせてほしい。
「クフフ、聞こえてなかったですか?」
「悪いけど、僕にはパイナップルの言葉を理解できるようなスキルは備わっていないよ」
「これから友達になろうという相手に向かってその言い草はあんまりだと思うんですが」
「ならないから大丈夫だよ」
とても残念なことに、どうやら聞き間違いではなかったらしい。
急に何を言い出すかと思えば、『友達になろう』だ。
殺し合いをするような敵という関係だったはずなのに、わけがわからない。
頭でも打ったか、思考まで果物になったとしか思えない。
「雲雀くんはどうして僕と友達になりたくないんですか」
「群れるのは嫌いだよ」
「それは弱い人間が群れているのが、でしょう?その点僕は強いから条件クリアだと思うんですけど」
「強いとか関係なく群れるのは嫌いだ。君とは尚更嫌だ」
「・・・雲雀くん」
「何」
「僕たち、もうすぐ高校生じゃないですか」
「僕はいつでも好きな学年だよ」
「言っておきますけど、5年後や10年後も中学生やってたりしたらすごく痛い人ですからね?」
変な髪形で変な笑い方するやつに言われたくない。
「・・・・・・高校生がどうしたの?」
「高校に入って、体育とか授業中に誰かと組まなきゃいけなくなった時どうするんです?」
「全部一人でやるよ。もしくはサボる」
「高校は義務教育じゃないんですよ?それじゃ進級できないですよ」
「教師を脅して進級する」
「雲雀くん。中学はそれで通せたかもしれないですけど、それはあくまで義務教育だからですよ。
高校では問題ばかり起こす生徒なんてさっさと辞めて欲しいと思うものです。
授業に出なかったり真面目に取り組まないのに問題行動ばかりする生徒が脅迫行為なんてしたら・・・
これはチャンスとばかりに退学にされて終わりだと思いますよ?」
「・・・・・・」
「授業は出なければいけない。誰かと群れなければいけない。
そんな状況で友達がいない一人ぼっちなんて絶対寂しいと思いますよぉ?」
「・・・それで?」
「僕もまあ高校には行っておきたいので、友達は必要だなと思いまして。
でも自分よりずっと弱い人間とつるむというのは抵抗感が・・・ねえ?」
「で?」
「だから、僕らが友達になれば問題解決するじゃないですか」
・・・・・・。
「いやー、利害一致ですね!」
「・・・。」
確かに、高校は義務教育ではないから退学もある。
中学ほど自由には出来ないだろう。
授業には出ないと、出席日数が足りなくて進級も出来ないだろうし・・・。
・・・体育なんて絶対誰かと組まなければいけないだろう科目だ。
一人ぐらい組める人間がいたほうがいいのは確かだ。
そうは思う、が。
「相手が君っていうのが・・・」
「前々から思ってたんですが、僕の扱い酷くないですか?」
だって南国果実だし。
あと笑い方は変だし。
「そもそも学校が違うけど」
「同じ高校に入れば問題ないです」
「・・・他にも君の周りに人はいるでしょ」
「犬や千種のことですか?仲間や手下としはいいですけど、そもそも学年が違いますからねえ・・・。
それにせっかく平和な日本にいるんですし、友達とか青春してもいいじゃないですかー」
「嘘くさい」
こいつが平和に青春とか、すごく似合わない。
むしろ青春という言葉からは程遠いだろう人間が何を言ってるんだ。
青い春とかお前には無いだろ。
「なんか失礼なこと考えてますね、その顔は」
「なんのことだか身に覚えがないけど?」
「絶対うそですよねそれ・・・。まあ言及はしないであげるので、とりあえず友達になりましょうよ」
「だから君とは嫌」
「 単位 」
「う」
「 体育 」
「・・・・・・。」
「一人でサッカーとかしてたら、最強の不良なんかじゃなくてただの寂しい奴にしか見えないでしょうねぇ」
ちょっとでもその様子を想像してしまった自分を自分で殺したくなった。
しかもその想像の中の自分が確かに『ただの友達いない寂しい人間』にしか見えなかったことが非常に嫌だ。
「僕を逃したらもう、高校でぼっち決定だと思いますよ」
初対面の一般人といきなり仲良くなれる人だとは思えませんし、とか言うこいつの口をいっそ引き裂いてやりたい。
「ひ ば り く ー ん ?」
「・・・・・・はぁ・・・。」
「・・・とても不本意ではあるけど。
仕方がないから、少しは仲良くしてあげるよ」
ほんと、実に不本意だけどね。
妥協してできた関係
10.12.07