自分はひとりでいい。
     初めてそう思ったのは、いつだっただろう。
     自分がひとりでいれば周りに迷惑をかけない。
     他人に合わせたりしなくていいから楽。
     ひとりでいれば、笑いたくないのに笑うなんていうこともない気楽さ。
     幼いときにそう思ってから、ひとりが当たり前になった。
     自分は独りでいい。


     なのになのに、なのに。
     どうして僕に近寄るの?
     どうして僕に付きまとうの?

     どうして僕の当たり前を壊すの?





       
ひとり。






     「ヒバリ」
     「・・・・・・・・・・・。」

     返事なんてしてやらない。
     僕はひとりがいい。
     コイツなんかと一緒にいる理由なんて無い。
     一緒にいたくない。
     僕の領域に入ろうとしないで。

     「ヒバリィー」

     ああ、うるさい。
     どうしてこんなに喚くのだろう。
     うるさくすると、僕に殴られるって解ってるくせに。
     それとも、まだ理解できてないの?あんなに殴ったのに。

     そのうち山本は僕を呼ぶのをやめて、勝手に部活のこととかについて語りだす。
     出れも聞きたいなんて言ってない。話を聞いてもいない。
     ああ、早く帰ればいいのに。


     「そのときツナがさ―――」

     「ねぇ、」

     僕が言葉を発したら、コイツは凄い勢いで僕のほうを笑顔で見てきた。
     何その嬉しそうな顔。僕が君の話に興味持ったとでも思ってるの?

     「どーした、ヒバリ?」

     「あのさあ」

     期待した目でみてくる山本。
     そんな期待に応えるつもりは無いけど。


     「殴っていいよね」


     うるさくする君が悪いんだよ?

     トンファーで殴って、殴って、
     もう僕のところに来たいなんて思わせないぐらい殴ってしまおう。
     そうすれば、僕の当たり前は、日常は、壊れない。
     元々の日々が、僕に返ってくるはず。
     だから僕はコイツを殴るんだ。

     バキッという音が響いて、山本は床に転がった。

     「ッてぇ・・・・・・」

     君の苦痛なんて知らないよ。知る必要だってない。
     だって僕はひとりだから。
     だから僕は君を殴る。殴り続ければいいんだ。
     だからさぁ、ねぇ。

     「防がないでよ・・・・・」

     僕は振りかぶったままの状態で止まっている。
     山本の右手がトンファーを受け止めているから。
     僕はコイツがぐちゃぐちゃになるまで殴り続けなければいけないのに。

     「無茶言うなよ」

     「無茶じゃないよ。君がじっとしてればいい」

     そう言って僕は左手で握っているトンファーで殴りつけようとする。
     でも山本はまた左手で受け止めてしまう。
     そしてトンファーを奪われてその辺に放り捨てられて、
     そのまま押し倒された。

     「・・・何のつもり」

     「んー・・・」

     腹の上に山本が乗っかってきて、両腕は山本によって頭上に押さえつけられている。
     この状態じゃ、抵抗しようにもできない。

     「ヒバリが大好きだなー・・・と思って」

     そんなことを言って、山本は僕に抱きついてくる。
     左腕は僕の両腕を押さえつけたままで。

     「寝言は寝て言え」

     「嘘じゃねーって」

     山本が僕の顔に唇を寄せてくる。
     額、頬にキスを落とされ、そのまま唇にもキスをされる。

     「ん・・・・・・・・・・」

     口の中に山本の舌が侵入してきたとき、僕は噛むこともせず、されるがままになっていた。
     山本の舌が僕の歯列をなぞり、舌を絡めとられても、僕は何も抵抗をしなかった。
     僕が何もしないことに、山本はやっと不審に思ったらしい。
     唇を離して、僕の顔を見てきた。
     僕らの間に、銀色の糸ができて、消えた。

     「ヒバリ・・・?」

     「終わったなら、さっさと帰ってくれない」

     「え?」

     「それとも、まだ飽きないの?」

     コイツを早く此処から追い出すには、この方法が一番早いと思ったから。
     さっさと飽きて、さっさと帰ればいい。
     そしてもう二度と此処に、僕のところに来なければいい。
     早く僕の日常を返せ。

     「・・・ッヒバリは俺が何しても、抵抗しないのかよ・・・!」

     山本が声を荒げる。
     何に対して怒りを感じているのかが僕には解らないけど。


     「さあね」


     僕の言葉が合図だったかのように、強引にキスされた。
     舌を入れられ、何度も角度を変えて。
     舌を絡めとられても、それ以上奥に進もうとしてくる。
     上も下も隅々まで山本の舌が動き回り、唾液が溢れそうになる。
     その溢れそうな唾液を舌が掬い取って山本の口に運び、音を立てて飲まれていく。
     それでもまだ足りないかのように、舌はまた僕の口の中で動きまわる。

     「ンん・・・・・ふぁ、」

     あまりにも乱暴なキスに僕の呼吸も苦しくなる。息を吸う暇がない。
     目尻に涙が浮かんできて、零れそうになるのを必死で抑える。

     やっと山本の舌と唇が離れて、僕の舌は自由になった。
     山本が飲みきれなかった唾液が、僕の唇から床へと伝い落ちた。

     「ッ・・・は、ぁ」

     山本は離れてやっと僕の目尻の涙に気付いたらしい。
     山本の顔がまた近づき、舌で涙を舐めとられた。

     「・・・・・ひばり」

     「・・・・・・、さっさと、帰りな、よ 」

     まだ息が整わなくて、言葉がつっかかる。
     こんな苦しくて乱暴なキスは初めてだったから、多分しばらく立てそうにない。
     まだ山本が上に乗っかってるから、どうせ動けないけど。

     「なぁ、ヒバリ」

     「・・・・・・・・・な、に」

     さっさと帰ってよ。
     これ以上僕の中に入ろうとしないで。入ってこないで。
     僕の当たり前を壊さないでよ。


     「何がそんなに怖いの?」

     「っ、」

     怖い?怖いって?僕が?
     そんなもの、あるはずない。

     「・・・・何も無いけど」

     「嘘だろ?」

     別に、怖いことなんかない。ただ、嫌なだけだ。


     「人と関わるのがそんなに怖い?」

     「!・・・・・・・怖くなんかない。嫌なだけだ」

     「・・・何で」

     「・・・・・・・僕は、ひとりでいい」


     僕はひとりだ。ひとりでいい。そう決めたから。それでいいんだ。
     なのに、どうしてコイツは、山本は、簡単に僕の中に入ってくるんだ。
     関わりあいたくなんて、ないのに。


     「俺は、ヒバリが好きだから。一緒にいたいし、好きになってほしい」


     好きって、何。
     解らないよそんなの。
     好きなんて言われたって、困る。

     だって僕は、僕は・・・・・・
     ・・・・・・・殴ることしか出来ないのに。

     「ヒバリ」

     「・・・やめて」


     自分はひとりでいいんだ。
     だから近づかないで、関わろうとしないで。
     だって、だって近くにいたら、
     一緒にいる時間が増えてしまったら、
     失いたくなくなるでしょ?

     嫌われるのが怖くなるでしょ?

     独りでいれば、何も怖くなんてない。


     「俺はヒバリを嫌いになったりしない」


     ああ、どうして
     どうしてコイツは、こんなにも簡単に僕の中に入って、僕を壊すのだろう。


     「大丈夫だから」



     嫌いにならない?
     でも、知ってるんだ。

     大切なものほど、失いやすいってこと――・・・・・


     だから僕は、ひとりでいいのに。



     
(どうして君は、僕を壊していくの?)

     
(ひとりでいい。胸の奥の小さな痛みを、僕は無視し続けるけど)





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   不完全燃焼。エロいのは書けない。
   以前に書いたツナヒバと微妙に被る。


   07.12.12