なんとなくだった。
     いや、もしかしたら作戦としてだったのかもしれない。

     普段煩くしてる俺が少し静かにしたら、ちょっとは気にするんじゃないか・・・とか。
     そんなことを思っていたのかもしれない。



     珍しく、静かに。
     それでも俺を演じるため、笑顔だけは顔に貼り付けて。



     俺は音を立てずに応接室の扉を開けた。
















     無言。

     音を立てずに扉を開けても、真正面にいるはずのヒバリには開いたことが分かるはず。
     それなのに、何の反応もない。
     それ以前に、反応を返す人物がいつもの場所に見当たらない。



     (ヒバリ・・・・?)



     と、視線を真正面から移しながら一歩踏み出そうとして、ストップ。
     何故って、気づいたから。
     ソファの上の存在に。


     ヒバリ。

     目的の人物がソファで横になって・・・寝ていた。



     ああ、何故気づくのにこんなに時間がかかったんだ俺のバカ。
     ヒバリが寝ていて良かった。こんな失態を目撃されずに済んだから。
     ああでも、天然でバカな俺だと思わせるには、見られても大丈夫だったかも?



     そんなことを考えながら物音を立てないように慎重にヒバリに近づく。
     確か木の葉が落ちる音でも起きるとか・・・まあ、流石にソレはないだろうけど。
     でも足音立てればきっと起きるんだろうな。(この部屋は絨毯だから音が立ちにくい。ラッキー)





     ・・・・・。
     ・・・なんか、


     (子供みたいだ・・・)


     ヒバリも寝てれば、普通の中学生って感じだ。
     眉間にしわを寄せてないし、目を閉じてるから睨んでもこない。
     微かに寝息が聞こえてくるこの姿からは、普段の凶暴な姿は想像し難い。


     (なんかこういう姿を見てると、俺がこいつで遊んでるのが犯罪のように思えてくるなー)


     まあ、酷いことに変わりはないんだけど。
     そう思って少し鼻で笑ったら、その音でヒバリが身じろぎした。




     「・・・ん・・・・・・・・・・・・」

     (あ、やべ)


     「あ、ヒバリ、起きたか?」



     あーあ、起きちまったか。
     もーちょっと見てたかったのに。(いや、別に他意はないけど)




     「、君・・・ッ!?」



     ああ、やっと頭が覚醒したみたいだな。
     まあ、びっくりするだろな、起きたら俺がいたんじゃ。
     あのヒバリだし。
     俺が来たのに起きなかったなんて、な。



     「やー、びっくりしたぜ?来たらヒバリ寝てんだもんな」


     これは結構ホントのこと(俺にしては珍しくな)。



     「・・・・・、起こせばよかったのに」

     迂闊だ、とか思ってるんだろうなって声してる。



     「や、起こすのとか可哀相かなーって。それに、ヒバリの寝顔可愛かったし!」

     「・・・・・・・ああそう」


     これは、嘘。
     ・・・いや、嘘か?
     まあ起こすのが可哀相っていうのは嘘だけど、


     (子供みたいで可愛い、って意味でなら本当かも?)


     ・・・・いやいやいや、何考えてるんだよありえないだろ俺。
     まあ確かに子供みたいだとは思ったけどな。



     「しっかし、珍しいのな!ヒバリが起きないなんて」


     俺が珍しく静かに行こうとか思ったからなんだけど、
     今考えたら馬鹿だよなぁ。

     いつもどおりにしてれば、さっきみたいな変なこと考えなかったのに。



     「別に。疲れてただけだよ」

     「えー、俺だから起きなかった、とかじゃなくて?」

     「ありえないね」



     ああ、やっぱりな。
     気を許してる、とか気が有る、とか。
     そんな答えがヒバリから来るはずなんてないし期待もなかったけど。

     なんか、最近行動がマンネリ化してるよなー。
     そろそろ何か仕掛けるか?
     じゃないと進みそうにないしなー。




     「ねえ」

     「ん?」

     「君って一応、野球部のエースなんだよね」

     「一応じゃなくてもエースだって」


     「モテるんじゃないの?」

     「へっ?」



     まさかの、向こうからの仕掛けかよ。
     それとも、一応進んでるってことか?
     今までヒバリの方から何か聞いてくることなんてほとんどなかったのに、
     しかも女関係って、なあ。



     「んー、まあ、それなりに?」


     「何で彼女作らないの?」


     「・・ヒバリィ、俺お前のこと好きだって言ってんじゃん!」



     なんでそんなこと聞くんだよ酷いヒバリ!みたいなのを表そうとして言ってみたけど、
     ヒバリの眉間に皺が増えただけだった。




     「告白されてたでしょ、今日」


     「っ!」





     見 ら れ た ?






     「昼休みの終わりごろ、女子が話してるのが聞こえたよ。『山本君にふられた〜・・・』ってね」


     「、ああ!そーいうことな」



     見られたのかと、思った。
     不覚にも思いっきり心臓が跳ねてしまったから、不自然な間が出来てたけど、
     ヒバリは気づいた、か?
     ・・・・・・・気づいただろうな、さすがに。

     でも、まだだ。
     まだバレるわけにはいかない。

     だってまだ遊び始めたばっかの相手にバレるなんて
     俺のプライドが許さないから。



     「で、なんで断ったの?」


     「だからぁ・・・」

     「もっとマシな答えを出しなよ」

     「マシ・・・・って?」


     「興味ないとか面倒とかったるいとか」


     「・・・それ、ヒバリのことだろ」


     「まあね」




     まあ、確かに俺にも当てはまることだけど。




     「山本 武」


     「ん?どした?」



     嘘の笑顔を浮かべながら、フルネームで呼ぶなんて珍しー、とか言ってる俺に向かって
     ヒバリは言った。
     普段は絶対に見せないような笑顔で。



     「大嫌いだよ」



     って。

     イラッ、と。
     少しだけ。





     「・・・え、コレいじめ?」


     「そうかもね」




     自分よりも優位に出ている、そんな今日のヒバリにイラついた。






     でも、このままじゃいられない。
     だってほら、俺って負けず嫌いだから。



     「・・・ヒバリ、日曜ヒマ?」


     「なんで」


     「一緒にどっか行こうぜ?」


     「何で嫌いなやつと出かけなきゃいけないの」


     「や、嫌われてるからこそ、好きになってもらうために・・・な?」


   

     進めるために、勝つために、こっちからも仕掛ける。
     こっちから行かなきゃ、優位になんて立てないから。

     勝って、ヒバリという存在を見下してみたいから。




     「いいよ」


     「え?」


     「日曜。行ってもいいよ」


     「マジで!?」


     「つまらなかったら咬み殺すから」


     「おー!まかせとけって!」





     日曜に、どうにかして落とせないか、
     でもそんなに早く落ちてもつまらないよな。

     なぁ、ヒバリ。
     人で遊ぶのって楽しいんだよ。



     「楽しみだな、日曜!」


     「そうだね」





     特にお前みたいに、
     騙されるだけじゃないやつで遊ぶのがさ。

     






         
ゲームは楽しむためにある。
     
    (だからさ、もっと俺を楽しませてみせろよ)









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  間が空きすぎてスイマセン。
  この1話に何ヶ月かけてるんだよ自分。
  もっさんが分からなくなりました。


  081004


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