ほんの気まぐれ。

     ただの遊び。


     それが俺とヒバリの関係。




















     自分がモテるんだと知ったとき、嬉しいよりも落胆が大きかった。
     上辺だけ見て好きになるなんて。
     普段は猫被って本性隠して、それに騙されて。
     いや、もしかしたら野球しか見てないのかもしれない。
     ただそれだけで人を好きになるっていうのが、がっかりだった。

     それからきっと、俺は変わったんだと思う。

     遊びで女と付き合うようになった。
     何日で落とせるか、賭けをしたことだってあった。
     人の心を弄ぶなんて、今までの自分では考えられなかったこと。
     それでも、相手だって俺の中身を見ようとしないんだから。別に罪悪感は無かった。
     告白してきた女子と適当に付き合って、野球を優先にしてれば勝手に向こうから別れを告げてくれる。
     まあ、付き合うと言っても、ほんの数日だけが多い。だから殆ど他人には知れていなかったらしい。
     
     ただの暇つぶしだった。

     その遊びも、簡単すぎて飽きてしまった。
     俺が好きだと言えば、大体の女子はOKする。
     俺が少し冷たくすれば、相手は「思っていたより優しくない」って言って去っていった。
     その繰り返し。つまらない。
     俺がいつ、優しいなんて言ったんだろうか。

     もっと、遊びがいのある、落としがいのあるヤツ。

     そこで思いついたのが、ヒバリだった。


     何故、男にいったのかは分からない。多分、女じゃつまらないと思ったからだろう。
     それにヒバリだったら、難関度が高い。
     暇つぶしには丁度いいと思った。

     最初のうちは、近づくだけでトンファーで殴られたりしたけど、
     それでも毎日応接室に通い続けたら、それは無くなった。
     毎日どうでもいいことを話し続けて、「明るくて馬鹿なヤツ」という俺を印象付けた。
     話し終わったら帰ってく。そんな繰り返し。
     そのうち、応接室に行っても何も言われなくなった。
     ほら、もう気を許し始めてる。
     やっぱり、ヒバリもこんなものなのか。
     俺の表面に騙されて、惚れて。
     それで俺の本性を知って傷ついてく、いつもと同じ。

     やっぱり、そんなもの。
     誰も、俺の中身なんて見ていない。



     「俺、ヒバリのことが好きだよ」



     そんな嘘の言葉に、動揺している。
     嫌悪じゃなくて、動揺。男同士なのに。


     「ヒバリのこと、愛してる」


     ありえない、偽りの甘ったるい愛の言葉。
     真顔で告げる俺。
     その真顔さえ演技だけど。

     なあ、ヒバリ。
     いつも通り答えてるつもりだろうけど、顔が引きつってるよ?
     動揺していることがバレバレだ。



     「ヒバリ、好きだからな」


     俺は応接室から出て行く。

     嘘の言葉と、ヒバリの驚いた顔を残して。










     「お前、マジでヒバリのこと好きなの?」



     そんなことを聞いてきたのは、小学生の時からの友人だった。
     付き合いが長いだけあって、他のやつらよりは俺の中身をわかっている。

     あくまで、他のやつらよりは。

     女遊びとかのことを知っているだけで(賭けもコイツらと)、俺のもっと黒い部分は見せていない。
     見せるつもりだって無い。




     「男同士だぜ?ありえねーよ。ただの遊びだよ」



     そう、ありえない。
     自分がヒバリに惚れることなんて。
     それに、ヒバリが俺に惚れることも。
     気を許したって、それは多分恋愛感情じゃないだろう。



     「ヒバリなら簡単に落ちないだろうし?楽しめそうじゃん」

     「じゃ、ヒバリがお前に落ちたらアイス奢ってやるよ」

     「やりっ」



     ほら、こんなもんだ。
     賭けをして、勝って。それだけのこと。

     なんてつまらないんだろう。







     後は適当に話しをして、俺は家に帰った。
     ヒバリを落としたら・・・か。
     ヒバリ・・・男・・・。


     男が、男に惚れて。
     それで惚れた男に裏切られたら・・・・。


     どれほどの屈辱なんだろうな。


     気を許して、好きになって、告白して。
     告白されて・・・・・・俺は一言「馬鹿じゃねぇの」って。
     あんな言葉や態度に騙されて本気になるなんて、「馬鹿だな」って。
     簡単に落ちてつまらなかった。
     まさか本気で男に「好きなんて言うと思ってるの?」。

     そんな言葉を吐かれたヒバリは、

     どれだけ悔しがって、どれだけ悲しんで、どれだけ泣いて、


     どのくらい闇に堕ちるんだろう?




     ああ、なんて面白そうなんだろう。
     可哀相にな、ヒバリ。

     俺に目をつけられるなんて、さ。




     「本気で落して遊ぶのも、悪くないかもな」








     
そしてゲームは始まった。
     
(これはただの遊びだよ)









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   山本視点の1話目。
   黒い・・・?微妙。

   07.12.18